2007年 6月の記事一覧

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07年06月30日 15時49分14秒
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「Yは飲食店営業を目的とする会社であり、キャバレーY1を経営している。Y1で演奏する楽団の一員であったX1は、その楽団の解散に伴い、Yから新たな楽団編成・演奏の依頼を受け、8人編成のX1バンドを作り、昭和44年6月からY1でダンス音楽の演奏をしている。X2は、Yがショーの伴奏をする楽団を探しているので楽団を編成して応募するようX1に勧められ、9人編成のX2バンドを作り、同年8月からX1バンドと30分ずつ交互にY1で演奏をしている。 昭和47年2月、休日の廃止や演奏料引き上げの問題をきっかけに、X2バンドの全員とX1は補助参加人X合同労組(大阪芸能労働組合)に加入し、分会を結成した。XがYの団交拒否と支配介入につき救済を申し立てたところ、YはX1、X2と請負契約を結んでいるに過ぎず、各楽団員との間に労使関係は存在しないとして不当労働行為は成立しないと主張した。 大阪地労委は労使関係の存在を認め、中労委もこれを支持したため、Yが中労委を被告に行政訴訟を提起したもの」である。

 これは、阪神観光事件であるが、最高裁(最判S62、2,26)は次のように判示した。

 バンドマスターであるX1及びX2も含めて両楽団の楽団員は、グループで年間を通じYの経営するY1に必要な楽団演奏者としてその営業組織に組み入れられ、Y1の営業に合わせYの指定する時間にその包括的に指示する方法によって長年月継続的に演奏業務に従事してきたものであり、また、Yから支払われる演奏料は楽団演奏という労務の提供それ自体の対価とみられるのであって、これらの諸点に照らせば、両楽団の楽団員は対価を得てその演奏労働力をYの処分にゆだね、Yは右演奏労働力に対する一般的な指揮命令の権限を有していたものというべきである。そうすると、Yは、X1及びX2を含む両楽団の楽団員に対する関係において労働組合法7条にいう使用者に当たると解するのが相当である。

 「使用者」概念は、「労働者」概念に対応するものであるが、一般的判断基準を示すことを避け、個別的具体的判断をなすにとどめている。

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07年06月29日 14時21分32秒
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「Xらは、Y航空会社の日本支社従業員であり、その従業員らで組織する労働組合に所属し、本件ストライキ当時は大阪、沖縄の各営業所に勤務していた。組合は、羽田地区におけるY社従業員と派遣会社の派遣する下請従業員との混用を職業安定法44条に違反すると主張。Y社もその要求の一部を受け入れ、一定部門における正社員化の方針などを回答したが、組合はこれを承服せず、あくまで下請従業員の直傭化を要求して、1ヵ月半にわたり東京地区の組合員をもってストライキを決行、同組合員らは羽田空港内のY社の業務用機材約70台をハンガー(格納家屋)に持ち去り、これを占拠した。その結果、Y社飛行便の大部分が欠航を余儀なくされ、大阪および沖縄営業所の従業員各12名(計24名)が就労を必要としなくなったとして休業を命じられた。 そこで、Xら19名は、主位的には休業期間中の未払い賃金の支払を、予備的には同期間中の休業手当の支払を求めて訴えを提起したもの」である。

 これは、ノースウェスト航空事件であるが、最高裁(最判S62,7,17)は次のように判示した。

1 労働者の一部によるストライキが原因で、ストライキに参加しなかった労働者が労働をすることが社会観念上不能又は無価値となり、その労働義務を履行することができなくなった場合、不参加労働者が賃金請求権を有するか否かについては、当該労働者が就労の意思を有する以上、その個別の労働契約上の危険負担の問題として考察すべきである。このことは、当該労働者がストライキを行った組合に所属していて、組合意思の形成に関与し、ストライキを容認しているとしても、異なるところはない。

2 ストライキは労働者に保障された争議権の行使であって、使用者がこれに介入して制御することはできず、また、団体交渉において組合側にいかなる回答を与え、どの程度譲歩するかは使用者の自由であるから、団体交渉の決裂の結果ストライキに突入しても、そのことは、一般に使用者に帰責さるべきものということはできない。したがって、労働者の一部によるストライキが原因でストライキ不参加労働者の労働義務の履行が不能となった場合は、使用者が不当労働行為の意思その他不当な目的をもってことさらストライキを行わしめたなどの特別の事情がない限り、右ストライキは民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」には当たらず、当該不参加労働者は賃金請求権を失うと解するのが相当である。

3 休業手当の制度は、・・・・・・・・労働者の生活保障という観点から設けられたものではあるが、賃金の全額においてその保障をするものではなく、しかも、その支払義務の有無を使用者の帰責事由の存否にかからしめていることからみて、・・・・・・・・・・使用者の立場をも考慮すべきものとしていることは明らかである。そうすると、労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」の解釈適用に当たってはいかなる事由による休業の場合に労働者の生活保障のために使用者に(平均賃金の6割)の限度での負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とするといわなければならない。このようにみると、右の「使用者の責に帰すべき事由」とは、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであって、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である。

 本件では、ストライキは組合が自らの主体的判断とその責任において行ったものであるとして、使用者の帰責性を認めず、賃金も休業手当も否定されています。ただ、判決は、賃金請求権と休業手当請求権とは競合しうるとの前提に立っていることに注意を要します。

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07年06月27日 16時07分36秒
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「日産自動車(以下会社という)が、プリンス自工を吸収合併した際、全金プリンス自工支部(以下支部という)は日産労組に統合されたが、一部組合員は支部を存続させたので、二労組が併存することになった。合併後旧プリンス工場に「日産型交替制」と「計画残業」が、会社と日産労組との協定に基づき導入された。会社はこの導入については日産労組とのみ協議し、支部とは何らの協議もしなかった。導入後会社は、製造部門の支部組合員を早番のみの勤務に組み入れ、残業は一切させなかった。また、間接部門でも、支部組合員は残業をさせられなくなった。 ところで、支部は、会社合併後、右の制度導入以前から、日産型交替制については深夜勤務(遅番)に反対し、計画残業についてはこれを強制残業として反対する情宣活動をしていた。その後、支部は残業からの除外を差別と主張した。 その後の団交で、会社は、初めて支部に対し、日産型交替制と計画残業は組み合わされて一体をなすものであるとして、その内容、手当等につき具体的な説明をし、日産労組と同様に支部もこれを受け入れない限り、支部組合員を残業に組み入れることはできない旨述べたが、支部はこれを拒否した。 不当労働行為救済申立事件で東京地労委は、労組法7条3号違反を認め、会社が残業を命ずるに当たって支部組合員であることを理由として他の労働組合員と差別して取扱ってはならない旨を命令した。その再審査申立に対し、中労委は棄却を命令した。この命令の取消請求をしたもの」である。

 これは、日産自動車事件であるが、一審は、支部組合員が残業を命じられなかったのは、支部の自主的判断による拒否の結果であるとして、不当労働行為を否定し、中労委命令を取消した。これに対し、二審は、会社の勤務体制への支部の反対は、会社の残業組入れ拒否の形式的、表面的理由に過ぎないか、ないしはその理由の一部をなすにとどまり主たる動因は反組合的意図にあるとして、一審判決を取消した。

 最高裁(最判S60,4,23)は、次のように判示して、上告を棄却した。

1 併存する組合の一方は使用者との間に一定の労働条件の下で残業することについて協約を締結したが、他方の組合はより有利な労働条件を主張し、右と同一の労働条件の下で残業をすることについて反対の態度をとったため、残業に関して協定締結に至らず、その結果、右後者の組合員が使用者から残業を命ぜられず、前者の組合員との間に残業に関し取扱いに差異を生ずることになったとしても、それは、ひっきょう、使用者と労働組合との間の自由な取引の場において各組合が異なる方針ないし状況判断に基づいて選択した結果が異なるにすぎないから、一般的、抽象的に論ずる限りは不当労働行為の問題は生じない。

2 複数組合併存下においては、使用者に各組合との対応に関して平等取扱い、中立義務が課せられているとしても、各組合の組織力、交渉力に応じた合理的、合目的的な対応をすることが右義務に反するものとみなさるべきではない。

3 合理的、合目的的な取引活動とみられうべき使用者の態度であっても、当該交渉事項については既に当該組合に対する団結権、の否認ないし同組合に対する嫌悪の意図が決定的動機となって行われた行為があり、当該団体交渉がそのような既成事実を維持するために形式的に行われているものと認められる特段の事情がある場合には、右団体交渉の結果としてとられている使用者の行為についても労組法7条3号の不当労働行為が成立する。

 企業内に複数の労働組合が併存する場合、使用者の交渉条件とこれに対する各労働組合の取引の自由が問題となるため、不当労働行為となるか否かの判断は、極めて微妙でありかつ困難となります。以前記事にした日本メール・オーダー事件も参照してください。

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07年06月26日 13時43分00秒
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「Xら21名は、Y会社の従業員であり、これをもって組織する訴外労働組合の組合員である。昭和48年1月30日、右組合はYに対し、2月1日以降出張・外勤拒否等の闘争に入る旨を通告。対するにYは同月5日から14日までの間、Xらに出張・外勤を文書で命じたが、Xらはこれを拒否、この間もっぱら内勤業務に従事した。かくてYは、Xらが右命令を拒否した間の賃金を過払い分として翌3月分の給与から控除。そこで、Xらは、かかる賃金カットを違法として、控除された賃金の支払を訴求したもの」である。

 これは、水道機工事件であるが、最高裁(最判S60,3,7)は次のように判示して、Xらの上告を棄却した。

 原審は、・・・・・・・・・・・・・・本件業務命令は、組合の争議行為を否定するような性質のものではないし、従来の慣行を無視したものとして信義則に反するというものでもなく、「Xらが、本件業務命令によって指定された時間、その指定された出張・外勤に従事せず内勤業務に従事したことは、債務の本旨に従った労務の提供をしたとはいえず、また、Yは、本件業務命令を事前に発したことにより、その指定した時間については出張・外勤以外の労務の受領をあらかじめ拒絶したものと解すべきであるから、Xらが提供した内勤業務についての労務を受領したものとはいえず、したがって、Yは、Xらに対し右の時間に対応する賃金の支払義務を負うものではない」と判断している。原審の右判断は、・・・・・・・・・・・・・・・正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

 出張・外勤命令が事前に発せられたことをもって、これ以外の労務の受領を予め使用者が拒絶したものと解する論理構成は、シックリしないものがある。使用者の争議行為として限定的に認めたロックアウトに関する最高裁の立場と整合性を有するのであろうか。

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07年06月25日 15時14分55秒
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「Xら4名は、Y会社における女子従業員で、Yの従業員組合Aの組合員でもあるが、昭和46年11月に生理休暇を2日取得したところ、精皆勤手当の算定に際して欠勤扱いとされ同月分の同手当が1000円しか支給されなかったため、本来5000円の手当受給権があるはずとしてその差額4000円の支給を請求したものである。 なお、YとA組合との間には、昭和46年3月以降「出勤不足日数のない場合5000円、出勤不足日数1日の場合3000円、同2日の場合1000円、同3日以上の場合なし」とする旨の同年11月の口頭による合意があった。また、原審の認定によれば、生理休暇取得者には、不就業手当としてXらには1日1460円から1510円の間の基本給相当額が支給されていたが、右46年合意に際し、生理休暇取得日数を出勤不足日数に算入する旨の口頭の約束があった。」というものである。

 これは、エヌ・ビー・シー工業事件であるが、最高裁(最判S60、7,16)は、次のように判示して、Xらの上告を棄却した。

1 労基法67条(現68条)は所定の要件を備えた女子労働者が生理休暇を請求したときは、その者を就業させてはならない旨規定しているが、年次有給休暇については同法39条4項(現6項)においてその期間所定の賃金等を支払うべきことが定められているのに対し、生理休暇についてはそのような規定が置かれていないことを考慮すると、「その趣旨は、当該労働者が生理休暇の請求をすることによりその間の就労義務を免れ、その労務の不提供につき労働契約上債務不履行の責めを負うことのないことを定めたにとどまり、生理休暇が有給であることまでをも保障したものではない」と、解するのが相当である。したがって、「生理休暇を取得した労働者は、その間就労していないのであるから、労使間に特段の合意がない限り、その不就労期間に対応する賃金請求権を有しない。」

2 また、労基法12条3項及び39条5項(現7項)によると、生理休暇は、同法65条所定の産前産後の休業と異なり、平均賃金の計算や年次有給休暇の基礎となる出勤日の算定について特別の扱いを受けるものとはされておらず、、これらの規定に徴すると、「同法67条(現68条)は、使用者に対し生理休暇取得日を出勤扱いにすることまでも義務づけるものではなく、これを出勤扱いにするか欠勤扱いにするかは原則として労使間の合意に委ねられている。」

3 ところで、生理休暇の取得が欠勤扱いとされることによって何らかの形で経済的利益を得られない結果となるような措置ないし制度を設けられたときには、生理休暇の取得が事実上抑制される場合も起こりうるが、労基法67条(現68条)の上述の趣旨に照らすと、「かかる措置ないし制度は、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、生理休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、生理休暇の取得を著しく困難とし同法が女子労働者の保護を目的として生理休暇について特に規定を設けた趣旨を失わせるものと認められるのでない限り、同条違反とはいえない。」

 生理休暇の有給性の問題と精皆勤手当の問題とは区別しなければなりません。最高裁が、生理休暇制度保障にいわば消極的な立場をとったのは、生理休暇制度の濫用防止を睨んでのことと思われます。

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07年06月23日 16時06分54秒
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「Y1会社と訴外A会社は、両者の核燃料部門をそれぞれ分離・併合し、Y2会社を設立した。Y1会社はこの新会社設立に伴い、原子力部門の物的施設をY2会社に譲渡あるいは賃貸し、同部門の全労働者151名を自社に在籍したまま休職の形でY2会社に出向させた。なお、A会社からY2会社への出向者は105名であった。  Y2会社としては、当座Y1・A両社から拠出された人的・物的施設をそのまま利用し、将来これを統合あるいは合理化する予定であり、これに伴い両社からの出向者をほぼ同数になるよう人員調整することを考えていた。また、発足後間もない時期には適材適所の人員配置をする必要もあり、そのために一部の出向者を元の会社に復帰させることも十分に予想された。 一方、Y1会社でも、Y2会社が独立の企業としての基盤を備えるまでは、Y2会社での人員整理や人員配置等の都合から出向者を自社に復帰させる場合があることを予定していた。また、Y1会社から出向を命じられた者も、出向の際の労働組合とY1との協議を通じてこのことを了解していた。 Xは、Y1会社に雇用され勤務していたが、Y2会社設立に伴い、Y2会社に出向を命じられた。XはY1会社入社以来病気その他の理由で無断欠勤、欠勤、遅刻が多く、このことはY2会社出向後も変わりなかった。そのため、Y1会社は、XをY2会社に出向させておくのはA会社に対する信義上妥当でないと考え、また、自社で生じた欠員を補充する必要から、Xに自社への復帰を命じた。しかし、Xはこれをかたくなに拒否したため、Y1会社はXを懲戒解雇した。 Xは、Y1・Y2両社に対し、雇用契約上の地位確認等を請求したもの」である。

 これは、古河電気工業・原子燃料工業事件であるが、最高裁(最判S60,4,5)は、Xの上告を棄却して、次のように判示した。

 労働者が使用者(出向元)との間の雇用契約に基づく従業員たる身分を保有しながら第三者(出向先)の指揮監督の下に労務を提供するという形態の出向(いわゆる在籍出向)が命じられた場合において、「その後出向元が、出向先の同意を得た上、右出向関係を解消して労働者に対し復帰を命ずるについては、特段の事情のない限り、当該労働者の同意を得る必要はない」ものと解すべきである。けだし、右の場合における復帰命令は、指揮監督の主体を出向先から出向元へ変更するものではあるが、労働者が出向元の指揮監督の下に労務を提供するということは、もともと出向元との当初の雇用契約において合意されていた事柄であって、在籍出向においては、出向元へ復帰させないことを予定して出向が命じられ、労働者がこれに同意した結果、将来労働者が再び出向元の指揮監督の下に労務を提供することはない旨の合意が成立したものとみられるなどの特段の事由がない限り、労働者が出向元の指揮監督の下に労務を提供するという当初の雇用契約における合意自体には何らの変容を及ぼさず、右合意の存在を前提とした上で、一時的に出向先の指揮監督の下に労務を提供する関係となっていたにすぎないものというべきであるからである。

 要するに、在籍出向の形態が問題になるのであり、出向元への復帰を予定していないような特段の事由がない限り、復帰命令に労働者の同意は必要ないということです。

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07年06月22日 15時54分27秒
Posted by: marutahoumuj
 前回の続きです。

 前回述べた労働基準監督署・労働局等によるいわば行政型ADRや司法型ADR(調停)の制度は、解決案に対し強制力がないため、当事者同士での任意の話合いが成立しなければ、紛争の解決に結びつかないという指摘がなされていました。

 一方、個別労働紛争の解決には、雇用・労使関係の制度や慣行等の専門的知見が要求されるだけでなく、労働者の生活基盤に直接影響を及ぼすため迅速な解決が要請されるのに、裁判をするには時間がかかりすぎることも問題視されていました。

 そこで、個別労働関係事件についての裁判所による簡易迅速な紛争解決手続を定めた「労働審判法」が、平成16年4月に成立し、平成18年4月1日から施行されています。

1 目的(1条参照)                                           
個別労働関係民事紛争について、裁判官と労働関係に関する専門的な知識経験を有する者が、事件を審理し、調停による解決の見込みがある場合には、これを試み、その解決に至らない場合には、権利関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判を定める手続を設け、あわせて、これと訴訟手続とを連携させることにより、紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的とする。

2 対象事件                                               
「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争」(1条)  労働者と事業主との間の紛争ですから、例えば、労働者同士のセクハラ事案は対象にならないのではないかと思われます。ただ、その場合でも、事業主の管理責任(民法715条の使用者責任)を問う場合であれば、可能かと思われます。

3 管轄                                                 
 (1)相手方の住所、営業所等の所在地を管轄する地方裁判所、(2)労働者が現に就業しあるいは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所、(3)当事者が合意で定める地方裁判所、であり、いずれも地方裁判所の管轄となっています。

4 労働審判委員会の構成                                     
 裁判官たる労働審判官1人と労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2人で構成される。

5 迅速な手続                                              
特別な事情がある場合を除いて、3回以内の期日で審理を終結しなければなりません。したがって、訴訟では1年以上かかるのはザラですが、この手続では3,4ヶ月で終結すると思われます。そのためには、当事者の迅速な争点及び証拠の整理が要求されるでしょう。

6 労働審判の効力                                           
調停が成立するか労働審判に適法な異議の申立がないときには、裁判上の和解と同一の効力を有します。また、労働審判に対して、告知を受けた日から2週間以内に異議の申立があれば、労働審判はその効力を失います。この場合には、労働審判手続申立の時に当該地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされます。このことは、異議を申立てるということは訴訟を覚悟でしなければならないということを意味し、労働審判の実効性が確保されるものと思われます。                               また、労働審判においては、当事者間の権利関係を確認し、金銭の支払等の給付を命じて、個別労働関係民事紛争の解決をするために相当と認める事項を定めることができる(20条)ため、例えば、解雇が無効であっても、労働者としては職場復帰を望んでいない場合には、金銭補償で解決することも考えられます。

7 労働審判によらない労働審判事件の終了                            
労働審判委員会は、事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないとみとめるときには、労働審判事件を終了させることができます。この場合にも、6と同様に訴えの擬制がなされます。

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07年06月21日 16時41分05秒
Posted by: marutahoumuj
 最近は、統計上景気が回復したとされていますが、バブル経済崩壊後は、リストラ等による不当解雇や賃金未払いなど、労働者と使用者との間の個別労働紛争は、相変わらず増えています。

 労働局などに寄せられる相談で最も多いのが、やはり解雇事案であり、次が労働時間、賃金引下げなどの労働条件の低下の事案、これにいじめ・嫌がらせの事案が続きます。

 このように労働者と事業主との間に個別労働紛争が生じた場合、顧問の弁護士や社会保険労務士などによって、「企業内において自主的解決」を図るのがベストである。このような法律の専門家が企業内に存在する場合には、紛争を未然に防ぐため、就業規則の充実が図られているものと思われます。しかし、それでも、個別労働紛争は起きるものです。

 企業内に法律の専門家がいない場合には、法律知識等の不足により紛争の自主的解決が困難となる場合が多くなります。そこで、都道府県労働局企画室または労働基準監督署に設けられている「総合労働相談コーナー」では、自主解決のための情報提供や相談・助言を行っています。

 また、都道府県労働局長は、個別労働関係紛争に関し当事者の双方または一方から紛争解決について援助を求められた場合には、企業内自主解決ができるよう、当事者に対し、必要な助言又は指導を行います。もっとも、男女雇用機会均等法にかかる事案については、勧告も行います。

 さらに、都道府県労働局長は、紛争当事者の双方または一方から「あっせん」の申請があった場合に、紛争解決のために必要があると認めるときには、都道府県労働局にある「紛争調整委員会」にあっせんを行わせます。あっせんは、当事者双方の主張の要点を確かめ、実情に即したあっせん案を作成・提示しますが、当事者の一方から不参加の意思表示がなされると、あっせん打ち切りとなります。また、あっせん案は、必ず受諾しなければならないものではないのです。このように強制力がないのです。

 そこで、労働審判制度の登場となりますが、次回に譲ります。

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07年06月20日 16時20分35秒
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「Y会社には、Y労働組合(約120名、以下労組)とY分会(20数名、以下分会)の2組合が併存していた。年末一時金に関して、Yと労組・分会とは一回目は妥結に至らなかった。労組との2回目の団交において、Yは前回の約束に基づいて「生産性向上に協力すること」という前提条件を付けた上で支給額上積み回答を示し、労組側はこれを受諾し、労働協約を締結し、Yは労組の組合員及び非組合員に対し、年末一時金を支給した。 他方、分会との2回目団交の席上、Yは、「生産性向上に協力する」という前提条件を付けた上、労組に提示したものと同一内容の回答を行った。分会は、「生産性向上に協力する」という条件は、人員削減を伴う合理化、労働組合潰しなどにつながると考え、その意味・内容を質問したが、具体的な説明は得られなかった。その後の団交においても、Yは、右前提条件と一時金回答とは一体のものであると主張した。分会は両者を切り離すべきことを主張して対立し、交渉は妥結せず、分会員に一時金は支給されなかった。 そこで、分会は、不当労働行為を理由に都労委に救済を申し立てた。都労委は、「生産性向上に協力する」という表現が極めて抽象的でその真意が測りかねる点があり、また、一時金につき妥結に至らなかったのはYが前提条件を一時金回答と不可分のものとした態度に基因するから、分会員に一時金が支給されない結果をもたらしたことは分会員に対する不利益取扱いであり、同時に分会の弱体化を企図したものであるとして、一時金の支給を命じた。Yはこれを不服とし、都労委(X)を被告として救済命令の取消訴訟を提起したもの」である。

 これは、日本メール・オーダー事件であるが、最高裁(最判S59,5,29)は次のように判示して、Xの命令を取消した原審を破棄した。

1 その前提条件は抽象的で具体性を欠くことから、一時金の積上げを実施する前提として提案するに当たって、Yは分会の理解を得るために十分な説明が必要であるのに協力義務の履行として具体的になすべきことの説明をしていない。にもかかわらず、右一時金の積上げ回答に本件前提条件を付することは合理性のあるものとはいい難く、したがって、分会がこれに反対したことも無理からぬものというべきである。

2 本件の前提条件は、労組の側から上積み要求実現のための交換条件として持ち出されたものとみるべきであるから、その内容上、労組とは組織とその方針を異にしていた分会として当然に受け入れられるものでないことは、Yとしても予測しえたはずである。

3 分会が少数派組合であることからすると、分会所属の組合員が一時金の支給を受けられないことになれば、同組合員らの間に動揺を来し、分会の組織力に影響を及ぼしその弱体化を来すと予測できる。Yが右のような状況の下において本件前提条件にあえて固執したということは、かかる状況を利して分会及びその所属組合員をして、右のような結果を甘受するのやむなきに至らしめようとの意図を有していたとの評価を受けてもやむをえない。

4 Yの右行為は、それを全体としてみた場合には、分会に所属している組合員を、そのことの故に差別し、これによって、分会の内部に動揺を生じさせ、ひいては分会の組織を弱体化させようとの意図の下に行われたものとして、労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為を構成するものというべきである。

 使用者が、併存する複数の組合に同一条件を提示し、一方の組合はこれを受諾して協約を締結したが、他方の組合はこれを拒否したため、結果として両組合間に差別状態が生じた場合に、常に不当労働行為になると判示しているわけではないことに注意を要します。それは、団体交渉における取引の自由、労働組合の選択の自由があるからです。

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07年06月19日 16時29分41秒
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「Xは、Y会社に技術者として勤務する者で、事件当時、工業学校卒業後に入社して以来14年近くが経っていた。この間、Xは、Y会社の従業員で組織する訴外A組合において様々な役職に就いたことがあったが、事件発生時には役職になく、組合主流派を労使協調路線と批判する立場をとっていた。 そのXが、他の数名と手分けして、昭和43年大晦日から翌44年元旦にかけての深夜に、Y会社の従業員社宅へビラ約350枚を配布した。ビラは、発行者の表示がなく、その内容は、Y会社に関して、(1)70年革命説を唱え反共宣伝をしている、(2)差別・村八分をはじめおよそ常識と法に反して労働者を締め上げている、(3)他の会社より低い給料・少ない賞与を押し付けている、(4)種々の既得権を取り上げてきた、などの事実を指摘し、(5)日本有数の大会社の正体がどんなにきたないものか、どんなにひどいものかを体で知ったと論評し、(6)ことしこそ以前にもましてみにくく、きたないやり方をするだろうと予想し、また、(7)会社の悪巧みや策動を・・・・・・公然と暴露すべきで、会社はそのことを最も恐れているとか、(8)会社は自分で自分の首をしめており、天に向かって唾するもの、還りて己が面を汚すとはY会社のことだとする記載があった。 Y会社は、こうしたビラ配布が就業規則の懲戒事由である「その他特に不都合な行為があったとき」に該当するとして、Xを最も軽い懲戒である譴責処分に付した。これに対して、Xは、譴責処分の無効確認などを求めたもの」である。

 ビラの内容が問題となったので、少し長くなりましたが、これは、関西電力事件であり、最高裁(最判S58,9,8)は次のように判示した。

1 労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、「企業秩序を遵守すべき義務を負い」、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、一種の制裁罰である懲戒を課すことができるものであるところ、「右企業秩序は、通常、労働者の職場内又は職務遂行に関係のある行為を規制することにより維持しうるのであるが、職場外された職務遂行に関係のない労働者の行為であっても、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有するものもあるのであるから、使用者は、企業秩序の維持確保のために、そのような行為をも規制の対象とし、これを理由として労働者に懲戒を課することも許される」のであり、右のような場合を除き、労働者は、その職場外における職務遂行に関係のない行為について、使用者による規制を受けるべきいわれはないものと解するのが相当である。

2 これを本件についてみるに、右ビラの内容が大部分事実に基づかず、又は事実を誇張歪曲してY会社を非難攻撃し、全体としてこれを中傷誹謗するものであり、右ビラの配布により労働者の会社に対する不信感を醸成して企業秩序を乱し、又はそのおそれがあったものとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認することができないではなく、その過程に所論の違法があるものとすることはできない。・・・・・Xによる本件ビラの配布は、就業時間外に職場外であるY会社の従業員社宅において職務遂行に関係なく行われたものではあるが、前記就業規則所定の懲戒事由にあたると解することができ、これを理由としてXに対して懲戒として譴責を課したことは、懲戒権者に認められる裁量権の範囲を超えるものとは認められない。

 職場外の職務遂行と関係のない行為に対する懲戒は、労働者の企業秩序遵守義務、使用者の企業秩序維持確保を根拠としていることに注意する必要があります。

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07年06月18日 15時29分06秒
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「観光バスの副運転手が、誘導のため下車しようとしたときに、同僚運転手が前進発進したため、そのバスに着地していた左足を轢過され、その結果生じた逸失利益と慰謝料を、民法715条1項の使用者責任を根拠に、損害賠償として請求したもの」である。

 これは、東都観光バス事件であるが、控訴審が、逸失利益については棄却し、慰謝料については200万円を認定した上、原告に過失ありとして過失相殺をし、かつ労災保険に基づく障害補償一時金および使用者等からの弁償金についても過失相殺の対象とし、先の慰謝料から控除したのに対し、最高裁(最判S58、4、19)は、次のように判示して、破棄差戻した。

 「労働者に対する災害補償は、労働者の被った財産上の損害の填補のためにのみされるものであって、精神上の損害の填補の目的をも含むものではない」から、・・・・・・・・・・前記上告人が受領した「労災保険による障害補償一時金及び休業補償金のごときは、上告人の財産上の損害の賠償請求権にのみ充てられるべき筋合のものであって、上告人の慰謝料請求権には及ばない」ものというべきであり、従って上告人が右補償金を受領したからといってその全部ないし一部を上告人の被った精神上の損害を填補すべきものとして認められた慰謝料から控除することは許されない。

 このように、わが国の最高裁判例は、労災保険法に基づく給付を、財産上の損害の填補であり、精神上の損害を含まないものと解していますから、慰謝料と労災保険法を調整するのは誤りなのです。ただ、「慰謝料」は、財産的損害を除く純粋な精神的損害のみを含んでいることが前提ですから、注意が必要です。

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07年06月16日 13時57分07秒
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「Y会社の就業規則には、女子従業員は毎月生理休暇を必要日数だけとることができ、そのうち年間24日を有給とすると定められていた。Y会社はこれを、Xら及びXら所属の労働組合の同意を得ないままで、女子従業員は毎月生理休暇を必要日数だけとることができ、そのうち月2日を限度とし、1日につき基本給1日分の68%を補償するという規定に変更した。Xらは、Yに対し、右の新規定の下で生理休暇の取得により減額された賃金の支払を請求したもの」である。

 これは、タケダシステム事件であるが、最高裁(最判S58,11,25)は、次のように判示して、Xらの請求を認容した原審を破棄し、差し戻した。

1 新たな就業規則の作成または変更によって、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由としてその適用を拒むことは許されないと解すべきことは、当裁判所の判例とするところであって、今これを変更する必要をみない。

2 したがって、本件就業規則の変更がXらにとって不利益なものであるにしても、右変更が合理的なものであれば、Xらにおいて、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されないというべきである。そして、右変更が合理的なものであるか否かを判断するに当たっては、変更の内容及び必要性の両面からの考察が要求され、右変更により従業員の被る不利益の程度、右変更との関連の下に行われた賃金の改善状況のほか、Y主張のように、旧規定の下において有給生理休暇の取得について濫用があり、社内規律の保持及び従業員の公平な処遇のため右変更が必要であったか否かを検討し、更には労働組合との交渉の経過、他の従業員の対応、関連会社の取扱い、我が国社会における生理休暇制度の一般的状況等の諸事情を総合勘案する必要がある。

3 原審が、長期的に実質賃金の低下を生ずるような就業規則の変更はそもそも許されないとの見解の下に、本件の変更が合理的なものか否かに触れることなく、それはXらに対し効力を生じないと速断したのは、就業規則に関する法令の解釈適用を誤ったものである。

 前にも述べましたが、就業規則の変更には、労働組合等の意見を聞く必要はありますが、同意までは要求されません。ただし、それが「合理的」なものでなければなりません。

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07年06月15日 15時24分12秒
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「郵政省と全逓との労働協約によって、計画年休制度が定められ、前年度及び前々年度で未取得の年休について、年度当初に労使間で話合い労働者の希望の月日を所属長が決定することになっている。Xらは高知郵便局集配課(局長Y)に勤務し、昭和46年度当初において、X1は6月26日、X2は6月24日が計画休暇付与予定日と決定されたが、集配課長はX1に対しては6月24日に、X2に対しては23日にそれぞれ休暇予定日を変更する旨通知した。しかし、X1とX2はいずれも予定日に欠勤したため、Yは2名を戒告処分としたもの」である。

 これは、高知郵便局事件であるが、最高裁(最判S58,9,30)は、時季変更権の行使を適法とし、処分も有効とした原判決を破棄し、差戻した。

1 年休と協約による協定年休について                                                      上告人ら及び被上告人の双方共に、休暇付与計画の変更が許されるのは、右計画を実施することが法39条3項但書き(現同条4項但書き)にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られるとの解釈を採っていることが明らかである。また、本件労働協約等は、法内休暇、協定休暇の区別を問わず、休暇を法39条所定の基準により一律に取り扱うこととしているものと解するのが相当である。

2 時季変更権行使の時期について                                             「年度の途中において時季変更権を行使し、右計画の休暇付与予定日を変更することができるのは、計画決定時においては予測できなかった事態発生の可能性が生じた場合に限られる。」「その場合においても、時季変更により職員の被る不利益を最小限にとどめるため、所属長は、右事態発生の予測が可能になってから合理的期間内に時季変更権を行使しなければならず、不当に遅延した時季変更権の行使が許されないものと解する。」

3 本件の休暇変更は、6月予定日の直前になされており、また、変更の理由も、同月27日の参議院議員選挙投票日を控えての配達郵便物数が平常より増加することが見込まれることを理由としているが、もしこの接した時期になって初めて右事態発生の予測が可能となったものであり、本件休暇付与予定日の変更が不当に遅延してなされたものでないというのであれば、右変更をもって有効なものと認めることができる。しかしながら、原審は、高知郵便局集配課においては年度途中の予測できない病気休暇や職員の希望による計画休暇の変更が従来少なくなく、また、郵便集配業務の特殊性として郵便物数を前もって把握することが困難であるという一般的事情に触れるのみで、右事態の発生がいつの時点において予測可能となったかについて何ら確定することなく、殊に参議院議員選挙投票日が相当以前から明らかになっているものであることとの関係について説明せず、本件計画休暇付与予定日の変更を有効としているのであって、原判決にはこの点において審理不尽、理由不備の違法があるといわざるをえない。

 この判例は、時季変更権を行使できる場合とその行使時期について厳格に解しており、年休の権利性を強化するものであろう。

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07年06月14日 14時02分50秒
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「ホテルオークラの従業員で組織する労働組合は、賃上げ闘争の一環として、就業時間中にリボンを着用するいわゆるリボン闘争を2回にわたり実施し、各回とも当日就業した従業員の一部の者が参加した。胸に着用したリボンは、布地により紅白の花もしくは桃の花をあしらいそこから幅2,5センチメートル、長さ6〜11センチメートルの白布地を垂らしたもので、その白布地の部分に「要求貫徹」あるいはそれに加えて「ホテル労連」の文字が黒色もしくは朱色スタンプで印されていた。会社は、リボン闘争を実施しないよう警告したが組合がそれを無視して実施したので、組合幹部5人の幹部責任を問い、減給及び譴責の懲戒処分を行った。 処分を受けた組合幹部が懲戒処分は不当労働行為に該当するとして救済の申立を行ったところ、都労委は救済を認容し、処分の取消と減給にかかる賃金相当分の支払を命じた。そこで、会社は、命令の取消を求める行政訴訟を起こしたもの」である。

 これは、大成観光事件であるが、最高裁(最判S57,4,13)は、原審の判断を是認し、上告を棄却した。

 第1審の東京地裁は、「一般にリボン闘争は、組合活動の面においては経済的公正を欠き誠実に労務に服すべき労働者の義務に違背するが故に、また争議行為の面においては労働者に心理的二重構造をもたらし、また、使用者はこのような戦術に対抗しうる争議手段をもたないが故に、違法であること、また、ホテル業におけるリボン闘争は、業務の正常な運営を阻害する意味合いが強いので、特別の違法性を有することを理由として、本件懲戒処分は不当労働行為に該当しないものと判断し、救済命令を取消した。」

 第2審の東京高裁は、一部理由を修正したほか第1審判決を支持し、控訴を棄却した。これに対して、都労委が上告したものである。

 この最高裁の判決は、およそリボン闘争はすべて正当性を欠くとの立場に立つのか、それとも本件事案のようなホテル業におけるリボン闘争に限って正当性を否定する趣旨なのか、明確でないことに注意する必要があります。

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07年06月13日 12時29分17秒
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「Xらは、Y(三菱重工長崎造船所)の従業員で、訴外三菱重工長崎造船所労働組合(以下長船労組)の組合員である。長船労組は昭和47年7月、8月ストライキを実施した。このため、Yは賃金支払日の各20日にストライキ期間中の時間割賃金をカットし、家族手当も例外としなかった。この家族手当は、Yの就業規則(社員賃金規則)に基づき従業員の扶養家族数に応じて支払われていたものである。Xらは、(1)家族手当は労働者の仕事量、勤務時間に関係なく支払われる生活補助的賃金であり、(2)また、家族手当を時間外労働等の割増賃金算定の基礎にしていない労基法37条の法意からも、右手当を時間割してストライキ期間相当額をカットすることは違法であると主張し、カット分の支払いを請求したもの」である。

 これは、三菱重工長崎造船所事件であるが、最高裁(最判S56,9,18)は、Xらの請求を認容した原判決を破棄し、次のように判示した。

 長崎造船所においては、ストライキの場合における家族手当の削減が昭和23年頃から昭和44年10月までは就業規則(賃金規則)の規定に基づいて実施されており、その取扱いは、同年11月賃金規則から右規定が削除されてからも、細部取扱のうちに定められ、Y従業員の過半数で組織された三菱重工労働組合の意見を徴しており、その後も同様の取扱いが引続き異議なく行われてきたというのであるから、ストライキの場合における家族手当の削減は、YとXらの所属する長船労組との間の労働慣行となっていたものと推認することができるというべきである。また、右労働慣行は、家族手当を割増賃金の基礎となる賃金に算入しないと定めた労基法37条2項及び本件賃金規則25条の趣旨に照らして著しく不合理であると認めることもできない。

 家族手当については、就業規則ではなく労働協約等に別段の定めがあるとか、その旨の労働慣行がある場合のほかは例外的取扱は許されないとする下級審の判決例があることには、注意を要します。

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