事案は、「Y会社には、Y労働組合(約120名、以下労組)とY分会(20数名、以下分会)の2組合が併存していた。年末一時金に関して、Yと労組・分会とは一回目は妥結に至らなかった。労組との2回目の団交において、Yは前回の約束に基づいて「生産性向上に協力すること」という前提条件を付けた上で支給額上積み回答を示し、労組側はこれを受諾し、労働協約を締結し、Yは労組の組合員及び非組合員に対し、年末一時金を支給した。 他方、分会との2回目団交の席上、Yは、「生産性向上に協力する」という前提条件を付けた上、労組に提示したものと同一内容の回答を行った。分会は、「生産性向上に協力する」という条件は、人員削減を伴う合理化、労働組合潰しなどにつながると考え、その意味・内容を質問したが、具体的な説明は得られなかった。その後の団交においても、Yは、右前提条件と一時金回答とは一体のものであると主張した。分会は両者を切り離すべきことを主張して対立し、交渉は妥結せず、分会員に一時金は支給されなかった。 そこで、分会は、不当労働行為を理由に都労委に救済を申し立てた。都労委は、「生産性向上に協力する」という表現が極めて抽象的でその真意が測りかねる点があり、また、一時金につき妥結に至らなかったのはYが前提条件を一時金回答と不可分のものとした態度に基因するから、分会員に一時金が支給されない結果をもたらしたことは分会員に対する不利益取扱いであり、同時に分会の弱体化を企図したものであるとして、一時金の支給を命じた。Yはこれを不服とし、都労委(X)を被告として救済命令の取消訴訟を提起したもの」である。

 これは、日本メール・オーダー事件であるが、最高裁(最判S59,5,29)は次のように判示して、Xの命令を取消した原審を破棄した。

1 その前提条件は抽象的で具体性を欠くことから、一時金の積上げを実施する前提として提案するに当たって、Yは分会の理解を得るために十分な説明が必要であるのに協力義務の履行として具体的になすべきことの説明をしていない。にもかかわらず、右一時金の積上げ回答に本件前提条件を付することは合理性のあるものとはいい難く、したがって、分会がこれに反対したことも無理からぬものというべきである。

2 本件の前提条件は、労組の側から上積み要求実現のための交換条件として持ち出されたものとみるべきであるから、その内容上、労組とは組織とその方針を異にしていた分会として当然に受け入れられるものでないことは、Yとしても予測しえたはずである。

3 分会が少数派組合であることからすると、分会所属の組合員が一時金の支給を受けられないことになれば、同組合員らの間に動揺を来し、分会の組織力に影響を及ぼしその弱体化を来すと予測できる。Yが右のような状況の下において本件前提条件にあえて固執したということは、かかる状況を利して分会及びその所属組合員をして、右のような結果を甘受するのやむなきに至らしめようとの意図を有していたとの評価を受けてもやむをえない。

4 Yの右行為は、それを全体としてみた場合には、分会に所属している組合員を、そのことの故に差別し、これによって、分会の内部に動揺を生じさせ、ひいては分会の組織を弱体化させようとの意図の下に行われたものとして、労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為を構成するものというべきである。

 使用者が、併存する複数の組合に同一条件を提示し、一方の組合はこれを受諾して協約を締結したが、他方の組合はこれを拒否したため、結果として両組合間に差別状態が生じた場合に、常に不当労働行為になると判示しているわけではないことに注意を要します。それは、団体交渉における取引の自由、労働組合の選択の自由があるからです。

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