皆さんご存知のとおり、この4月から離婚時の厚生年金(公務員等の共済年金は置いときます)の分割制度が始まります。この制度は、平成19年4月1日以後に離婚等をした場合において、当事者の合意や調停・審判・訴訟手続により按分割合を定めたときには、当事者の一方からの請求によって、「婚姻期間中」の「保険料納付記録」を分割することができる制度です。保険料納付記録とは、厚生年金保険料の算定の基礎となった標準報酬(標準報酬月額と標準賞与額)のことを指します。この標準報酬を基礎として、厚生年金の年金額を計算します。

 従来も、離婚時の財産分与の一部として、「年金額」を分割していました。しかし、一旦別れた夫から月々振り込んでもらうことの後ろめたさや、振込みが途絶えた場合のトラブルなどを回避するため、新しい制度として、「保険料納付記録」を分割することにしました。これにより、「夫」(通常分割する方は夫であることを前提とします。)に受給権が発生してからもらえるのではなく、「妻」に受給権が発生してからもらえる制度である、ことに注意を要します。したがって、従来、夫が亡くなるともらえなかったのが、4月以降は夫が亡くなっても、自分自身の権利として生涯もらえることになりますが、妻自身に年金の受給資格がないと、分割された年金をもらえないことには留意する必要があります。老齢年金をもらうためには、国民年金・厚生年金等の公的年金に原則として25年以上加入することが必要なのです。

 この年金分割制度を睨んでなのか、離婚件数が、平成14年度の約29万件をピークに、15年度約28万件、16年度約27万件、17年度約26万件と減少しています。それでも2分に一組の夫婦が離婚している計算になるようです。昨年の10月から、按分割合を定めるのに必要な分割の対象となる期間や、その期間における当事者それぞれの標準報酬総額、按分割合の範囲等の情報の提供を、住所地の社会保険事務所に請求することができることになりました。そのせいか、昨年の暮れに私が某社会保険事務所を訪れた時、年金相談の部署だけがヤケに混雑していました。

 それはさておき、私が、年金分割制度を念頭に離婚を考えている方に注意を促したいのは、(1)夫がもらう年金はすべて分割できるのではなく、「婚姻期間中」の保険料納付記録に限るということと、(2)分割で夫の年金の一部がすぐにもらえるのではなく、自分の年金受給権が発生してからもらえるということ、の2点です。(1)について言えば、婚姻期間が短いと分割される額もビビたるものとなるし、婚姻期間が長くても、例えば仮に年金額が月20万円として、夫婦であれば何とか暮らしていけるのに、分割により折半して10万円ずつということになれば、共倒れになる可能性があるのです。(2)について言えば、夫が年金をもらっていても、妻自身が受給年齢前ならばまだもらえないだけでなく、自分自身に年金の受給資格がなければ、分割された年金をもらえないことになるのです。

 離婚を決意した方に、それを思い止まりなさいという資格は私にはありませんが、年金分割制度を過度に評価しないで、慎重に考える必要があります。まずは、社会保険事務所に、情報の提供を請求してみては如何でしょう。その際、請求者自身の年金手帳(国民年金手帳)と戸籍謄本(抄本)が必要となります。

 今回はこの辺で。