事案は、「J小学校の教諭である訴外Aは、市内の小学校の球技大会を目指したポートボールの練習を指導する教諭の中で中心的立場に立ち、その練習指導の大部分を行ってきていた者である。Aは、昭和54年10月28日午前7時40分ころ出勤したが、出勤間もないころから頭痛等の身体的不調を訴え普通の健康状態にあるとは考えにくい行動をとり、また体調が悪いことから昼頃と、他校での試合審判開始前の二回にわたり同僚の教諭らに審判の交代を頼んだが聞き入れられず、やむなく午後2時ころに始まった試合に審判として臨んだ。Aは、この審判としての球技指導中に気分が悪いといって倒れ、意識不明となって入院し、入院先で特発性脳内出血と診断され、血腫除去の緊急手術を受け一時意識状態が好転したが、同年11月3日呼吸不全に陥り、同月9日に死亡した。  Aの妻であるXは、本件死亡につき、公務災害の認定を請求。Yは、昭和54年12月25日付けで公務外認定処分をした。Xは、本件処分を不服とし、審査請求次いで再審査請求をしたがいずれも棄却されたため、本件処分の取消訴訟を提起したもの」である。

 これは、地公災基金愛知県支部長事件であるが、最高裁(最判H8,3,5)は次のように判示した。

1 特発性脳内出血は、破裂した微細な血管部分から微量の血液が徐々に浸出するもので、出血開始から血腫が拡大し意識障害に至るまでの時間がかなり掛かる。そして血圧の変動が出血の態様、程度に影響を及ぼすことがあり、また、肉体的又は精神的負荷が血圧変動や血管収縮に関係し得ることは経験則上明らかなので、出血の態様、程度が、血管破裂後に当人が安静にしているか、肉体的又は精神的負荷が掛かった状態にあるのかによって影響を受け得る。そうすると、出血開始時期がポートボールの試合の審判をする以前であったとしても、右審判による負担やこれによる血圧の一過性の上昇等が出血の態様、程度に影響を及ぼす可能性も・・・・・・十分に考えられる。また、午前中の段階で、Aは身体的不調を訴えていたのであるから・・・・特発性脳内出血の性質からして、直ちに診察、手術を受ければ死亡するに至らなかった可能性もある。結局、出血開始後の公務の遂行がその後の症状の自然的経過を超える増悪の原因となったことにより、又はその間の治療の機会が奪われたことにより死亡の原因となった重篤な血腫が形成されたという可能性を否定することは許されない。

2 Aは、ポートボールの練習指導の中心的存在であり、他に適当な交代要員がいないため交代が困難であったことから、やむを得ずポートボールの試合の審判に当たったことがうかがわれる。そうすると、仮に前記の可能性が肯定されるならば、Aの特発性脳内出血が後の死亡の原因となる重篤な症状に至ったのは、午前中に脳内出血が開始し、体調不調を自覚したにもかかわらず、直ちに安静を保ち診察治療を受けることが困難であって、引き続き公務に従事せざるを得なかったという、公務に内在する危険が現実化したことによるものとみることができる。

3 以上によれば、出血開始後の公務の遂行が特発性脳内出血の態様、程度に影響を与えた可能性、死亡に至るほどの血腫の形成を避けられた可能性等の点について審理判断を尽くすことなく・・・・・・・公務起因性を否定した原審の判断には審理不尽又は理由不備の違法があるので原判決を破棄し、右の点について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す。

 本判決は、発症それ自体に業務起因性が認められなくとも、当該疾病の発症後に従事した業務が症状を自然的経過を超えて増悪させた場合には業務上となると判断しています。

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