事案は、「Xは、昭和51年8月26日に被った負傷について、那覇労働基準監督署長Yより「業務上」の認定を受け、療養補償給付及び休業補償給付を受給していたが、昭和53年1月20日にYから上記負傷につき「治癒」したとの認定がなされ、これ以降の期間については補償給付を行わないとする処分を受けた。Xは、この処分を不服として、沖縄県労働者災害補償保険審査官に審査請求したが、棄却されたので、労働保険審査会に再審査請求をなした。審査会は、昭和57年4月20日、「治癒」の日を昭和54年12月20日と判断し、Yの不支給処分を一部取消す旨の裁決をなした。  しかし、この裁決を不服とするXは、その後もなおYに対し、昭和62年6月1日以降の期間について療養補償給付及び休業補償給付を請求したところ、Yは平成2年7月5日に不支給とする処分をなした。Xは、同月16日に本件処分を不服として、再び審査官に不服審査をしたが、3ヶ月以上経過しても裁決がなかった。そのため、Xは、行政事件訴訟法8条2項1号にいう「審査請求があった日から3箇月を経過しても裁決がないとき」に当たると判断して、再審査請求手続が始まる前の平成3年1月25日に、本件処分の取消を求める訴えを提起したもの」である。

 これは、那覇労基署長事件であるが、最高裁(最判H7,7,6)は次のように判示した。

 行訴法8条2項1号の「審査請求」は、行政処分について、2段階の審査請求手続が定められ、かつ、第2段階の審査請求に対する裁決の前置主義が採られている場合には、法律に特段の定めがない限り、第1段階の審査請求と第2段階の審査請求のいずれをも指し、そのいずれに対する裁決が遅延するときにも、同号が適用され、裁決前置主義が緩和される。

 労災保険法は、保険給付に関する決定に対する不服について、2段階の審査請求手続を定め、かつ、取消しの訴えにつき第2段階の審査請求に対する裁決の前置を定めている。その趣旨は、多数に上る保険給付に関する決定に対する不服事案を迅速かつ公正に処理すべき要請にこたえるため、専門的知識を有する特別の審査機関を設けた上、裁判所の判断を求める前に、簡易迅速な処理を図る第1段階の審査請求と慎重な審査を行い併せて行政庁の判断の統一を図る第2段階の再審査請求とを必ず経由させることによって、行政と司法の機能の調和を保ちながら、保険給付に関する国民の権利救済を実効性のあるものとしようとするところにある。

 しかし、これらの定めからは、行訴法8条2項1号の「審査請求」を第2段階の審査請求に限定するとの趣旨を読み取ることはできず、また労災保険法は、審査請求に対する決定が遅延した場合に決定を経ないで再審査請求をすることを許容するなど、その遅延に対する救済措置の定めを置いていないので、第1段階の審査請求についての法8条2項1号の不適用を定めたものと解するならば、国民の司法救済の道を不当に閉ざす結果を招くことは明らかであるから、そのような解釈は採り得ない。

 したがって、保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をした日から3箇月を経過しても決定(法8条2項1号の「裁決」に当たる。)がないときは、審査請求・・・・・・の手続を経ないで、処分の取消しの訴えを提起することができるものというべきである。

 なお、この判決後、労災保険法が改正され、「審査請求後3箇月を経過しても審査官の決定がないときには、再審査請求できる」ことになったので、行訴法8条2項1号は2段階目の不服申立手続の遅延にのみ適用されることになると思われる。

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