事案は、「Xら4名は、タクシー業を営むY会社の乗務員として昭和62年2月28日まで勤務していたが、Xらの勤務体制は、労働時間を午前8時から翌日午前2時まで(そのうち2時間は休憩時間)とする隔日16時間勤務制であった。賃金は一律歩合制で、1ヶ月間の稼動によるタクシー料金の月間水揚高に一定の歩合を乗じた金額とされていた。しかし、Xらが労基法37条の時間外及び深夜労働を行った場合にはこれ以外の賃金は支給されておらず、右歩合給のうちで通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできなかった。  Xらは、昭和60年6月1日から62年2月28日までの期間について時間外及び深夜の割増賃金が支払われていないとして、この期間のうち昭和61年12月から同62年2月までの3ヶ月間の勤務実績に基づき午前2時以降の時間外労働及び午後10時から翌日午前5時までの深夜労働に対する割増賃金等の支払を求めたもの」である。なお、Yは、右歩合給には時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分も含まれているから、右請求にかかる割増賃金は既に支払済みであると主張した。

 これは、高知県観光事件であるが、最高裁(最判H6,6,13)は次のように判示した。

1 原審における当事者双方の主張からすれば、Xらの午前2時以後の就労についても、それがXらとYとの間の労働契約に基づく労務の提供として行われたものであること自体は、当事者間で争いのない事実となっていることが明らかである。したがって、この時間帯におけるXらの就労を、法的根拠を欠くもの、すなわち右の労働契約に基づくものではないとした原審の認定判断は、弁論主義に反するものであり、この違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかなものというべきである。そうすると、原判決は、その余の論旨について判断するまでもなく、破棄を免れない。

2 本件請求期間にXらに支給された前記の歩合給の額が、Xらが時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、Xらに対して法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべきであり、Yは、Xらに対し、本件請求期間におけるXらの時間外及び深夜の労働について、法37条及び労基法施行規則19条1項6号の規定に従って計算した額の割増賃金を支払う義務がある。

 割増賃金を予め歩合給に組み込んで支給する場合には、歩合給の中で通常の賃金部分と割増賃金部分とが判別可能であることが要請されるでしょう。

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