事案は、「亡きAらは、労基法及び労災保険法の施行日である1947年9月1日より前に約1年間ないし9年間、ベンジジンの製造業務に従事した。亡きAらの遺族Xらは、Y労基署長に対して、亡きAらが、ベンジジン製造業務に従事したことに起因して、その発病日が前記労基法・労災保険法施行日より1年半ないし25年を経た後である膀胱がん等にかかったとして、労災保険法に基づき、昭和51年に至り、それぞれ保険給付を請求した。しかし、Yは、労災保険法による保険給付の対象となるのは、同法の施行日以降に従事した業務に起因して発生した死傷病に限られるとして、保険給付の不支給決定をした。Xらは、本件不支給決定を不服として、審査請求、再審査請求をしたが、いずれも棄却されたので、本件不支給決定の取消を求める訴訟を提起したもの」である。

 これは、和歌山ベンジジン事件であるが、最高裁(最判H5、2,16)は次のように判示した。

1 労働基準法による災害補償の対象となる疾病の範囲についてみるのに、同法は、広く、業務上の疾病を災害補償の対象とするものであり(同法75条ないし77条)、同法附則129条は、その文理からして、右の業務上の疾病のうち、同法施行前に疾病の結果が生じた場合における災害補償については、なお旧法の扶助に関する規定による旨を定め、右の場合のみを労働基準法による災害補償の対象外としているものと解されることにかんがみると、「労働基準法の右各規定は、同法の施行後に疾病の結果が生じた場合における災害補償については、その疾病が同法施行前の業務に起因するものであっても、なお同法による災害補償の対象としたものと解するのが相当である。」

2 「労働者災害補償保険法もまた、同法の施行後に疾病の結果が生じた場合については、それが同法施行前の業務に起因するものであってもなお同法による保険給付の対象とする趣旨」で、同法附則57条2項において、同法施行前に発生した業務上の疾病等に対する保険給付についてのみ、旧法によるべき旨を定めたものと解するのが相当である。

 労災保険法施行から既に60年近く経った今では、本件のようなケースが出てくる可能性はほとんどないと思われるが、被害者救済という観点を重視した判決であった。

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