事案は、「Xは、Y会社の横浜工場の従業員であったが、Y会社が系列会社であるZ会社に転属させる意向をXに対して伝えたところ、Xはこれを了承した。しかし、Z会社はXに対して雇うことができない旨の通知をし、また、Y会社も、Xを退職したものとして取り扱い、Xが横浜工場の従業員であることを否定しているというもの」である。

 これは、日立製作所横浜工場事件であるが、最高裁(最判S48,4,12)は次のように判示した。

1 原審が、「労働者であるXの承諾があってはじめて転属の効力が生ずる」ものとした判断は、相当として是認することができる。

2 原判決の要旨を述べると、「本件転属がY会社のXとの間の労働契約上の地位の譲渡であり、Y会社とZ会社との間の本件転属に関する合意が成立した以上、Xがこれを承諾すれば、Y会社のXとの間の労働契約上の地位は直ちにZ会社に移転する」から、「XはY会社の従業員たる地位を失うと同時に、当然Z会社の従業員たる地位を取得するものというべく、その間に改めてZ会社との間に労働契約を結ぶ余地のないことは明白である。」ということになる。

3 そして、Z会社で支障なく就労できることが本件転属承諾の要素となっていたことは明白であるところ、XはZ会社で就労させてもらえるものと信じて本件転属を承諾したのに、当時すでにZ会社ではその就労拒否を決定していたのであるから、「右承諾は要素に錯誤があり、無効」といわざるを得ない。

 Xの、「本件転属はZ会社がXを雇うことを条件とするY会社とXとの間の労働契約の合意解約」である旨の主張を退けて、「Xの承諾があってはじめて転属の効力が生じるが、その承諾は要素に錯誤があるから無効」として、転属の効力は生じないとしたものです。

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