「医師(勤務医)の残業代込みの定額年俸が有効か否かが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷は、「年俸に残業代が含まれているとはいえない」として、医師の請求を退けた2審の高裁判決を破棄し、未払い分の残業代を算定するため審理を高裁に差し戻した」との事です。

 訴えていた医師は、平成24年に病院側と年俸1,700万円とする雇用契約を締結。午後9時以降や休日は「必要不可欠な緊急業務」などに限って時間外賃金が支払われることになっていましたが、医師が午後9時までの残業代なども支払うよう求めていました。

 一審、二審では、原告の医師の年俸が1,700万円と高額な点などから「基本給と区別できないが、残業代も含まれる」としていました。
 しかし、最高裁では、過去の最高裁判例を引用し、「通常賃金と時間外賃金(残業代)が区別できる必要がある」とした上で、今回の年俸契約ではこの区別ができておらず、残業代が支払われていたとはいえないと結論づけたようです。

 今年3月、タクシー運転手の歩合給に残業代が含まれているか否かが争われた訴訟も、最高裁までもつれました。このときの最高裁の考え方は、「賃金規則で定めた独自の計算方法を使っても、同法が定めている水準の残業代が実質的に支払われていれば適法」といったもので、残業代が実質的に支払われていたかどうかを検討するため、審理を同高裁に差し戻したというものでした。

これらの最高裁の判例をみると、残業代込みの賃金(基本給に残業代を含める制度や固定残業代など)については、
・一律にそのような制度が無効ということではない。
しかし
・通常賃金と残業代とを区別できる必要があり、実質で判断すべき。
という考え方が貫かれているように見受けられます。

 実質で判断されるので、労働者側勝訴のケースもあれば、経営者側が訴えを退けるケースもあるといったように、結論はさまざまになっていくかもしれませんが、重視されるのは、通常賃金と残業代とを区別できるかどうかです。
 その区別ができないのなら、残業代込みの賃金を導入すべきではないということになりますね。
 一時ブームを築いた固定残業代などの残業代込みの賃金。経営の見通しが立てやすいというメリットは残りますが、コスト削減はもちろん、事務の軽減というメリットも失われた感があります。今後さらに導入する企業が減るかもしれませんね。

 なお、今回の最高裁の判断について、「働き方改革を巡る今後の議論にも影響を与えるのでは?」と報じている報道機関もあります。
 専門職でどんなに高給取りでも残業代は必要ということですから、”いわゆる高度プロフェッショナル制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)の導入に釘をさした”という捉え方もできるかもしれませんね。