期間の定めのある契約の場合、期間満了で契約を更新しないのも解雇と同じ扱いか、という問題についてみてみましょう。

 ●更新を繰り返している場合、解雇権濫用の法理が適用される場合がある

 期間の定めのある契約を、期間満了により終了させる場合は、契約の期間が終わった以上、それが終了するのは当然であり、本来は合理性も相当性も問題にならないはずです。勿論、契約を更新することはありますが、それは新たな契約の締結ですから、契約するか否か、言い換えれば更新するか、期間満了で辞めてもらうかは自由なはずです。

 しかし、何度も更新を繰り返しているような場合には、労働者保護の観点から、解雇権濫用の法理が類推適用される場合があります。この場合、期間満了時に更新を拒否して雇用契約を打ち切る(雇い止め)ためには、期間の定めのない雇用契約の場合と同様に、合理的な理由と相当性が求められるようになります。どのような場合に雇い止めに解雇権濫用の法理が適用されるかについては、裁判例が集積され、判例法理が形成されています。
   
 ●解雇権濫用の法理が適用されたケース

  東芝柳町事件(最判昭49.7.22)では、期間の定めのある契約を反復更新したことにより、労働契約関係は、実質的に期間の定めのない契約と変わりない状態になり、よって解雇に関する法理が類推適用されるとしました。

 しかし、最近では東芝柳町事件の頃と違って、あるいは同事件の教訓を活かして、企業も契約更新の手続きを厳格にするとか、正社員の業務・勤務形態・処遇等との差異といった点について留意するようになりましたので、「期間の定めのない契約と実質的に同じ状況」にあるという事実認定がなされることは少なくなったようです。


 そこで、近年の判例の傾向としては、期間の定めのない契約と実質的に同じ状況であるとまではいえないが、それでも「雇用継続を期待することが合理的であると認められる」ような場合には
、当該契約の雇い止めは、これが相当と認められる特段の事情のない限り許されるとするものが多くみられるようになりました。

  したがって、更新の度にキチンと契約書を取り交わすとか、パートと正社員の業務・勤務形態や処遇について明確に一線を画していたとしても、とどのつまり当然に契約更新が前提とされているといった実態がある場合には、解雇権濫用の法理が適用されることがあります。


●厳格な労務管理によって解雇権濫用の法理が適用されなかったケース

   もっとも、5、6年継続して雇い入れしても、更新の可否をその都度実質的に審査し、厳格な更新手続きを行っているような場合には、雇い止めに解雇権濫用の法理を類推適用することはできないとした例もありますから(高田製鋼所事件大阪地決平5.8.10、丸島アクアシステム事件大阪高決平9.12.16)、常に解雇と同じ扱いというわけではありません。

 このように解雇権濫用の法理が類推適用されるか否かは、どのような労務管理をしていたか、更新実態がどうだったかによって大きく左右されます。

 参考「解雇・退職の法律相談」(石井妙子・あさ出版)120頁