過重労働による健康障害を発生させた事業場に対する監督指導結果について

東京労働局が管下18の労働基準監督署(支署)において、平成20年度に実施した過重労働による健康障害を発生させた事業場における監督指導結果をまとめた。

■監督指導結果の概要


1.監督指導を実施した57事業場の84%(48事業場)に法令違反が認められ、是正勧告を行った。
 違反項目別では、労働基準法では労働時間(同法第32条)に関する違反率が61%と最も高く、また労働安全衛生法では衛生委員会の設置(同法第18条)に関する違反率が30%で最も高い結果となった。

2.監督指導を実施した57事業場のうち23%の13事業場では、過重労働による健康被害を受けた労働者(以下「被災労働者」という。)に対し、発症前の1年間に健康診断(採用後1年未満の者は雇入時の健康診断を含む。)を受診させていなかった。

3.同じく61%の17事業場では、発症前の健康診断で何らかの所見が認められた被災労働者に対し、健康診断の事後措置を講じていなかった。

4.同じく63%の36事業場では、被災者が発症した時期に、医師による面接指導等の措置を講じていなかった。

5.発症後、長時間労働の是正や、医師による面接指導等について自主的に改善を行った事業場は、47%(27事業場)であった。


■監督指導の概要

1.実施時期
:平成20年4月1日~平成21年3月31日

2.目的
:過重労働による健康障害を発生させた事業場に対し、原因の究明及び再発防止対策を徹底させること。

3.対象事業場

 労働時間の不適正な管理、長時間労働や不適切な健康管理を原因として過重労働による健康障害を発生させ、労働基準監督署長が労災認定を行った57事業場。


■監督指導結果の概要


1.監督指導を実施した57事業場のうち、48事業場(違反率84.2%)において労働基準法、労働安全衛生法等の法違反が認められ、法違反が認められなかった9事業場のうち7事業場に対しても労働時間の適正管理、過重労働による健康障害防止等について文書による改善指導を実施した。


2.指摘した違反項目

〇労働基準法
1位:時間外・休日労働の届出なく又は協定の範囲を超えて時間外労働をさせていたもの(同法第32条)
  ⇒35事業場(同61.4%)

2位:時間外手当等の未払(同法第37条)⇒24事業場(同42.1%)

★不適切な労働時間管理が多く認められた。


〇労働安全衛生法
1位:衛生委員会未設置(同法第18条)⇒8事業場(同29.6%)

2位:衛生管理者未選任(同法第12条)、産業医未選任(同法第13条)⇒それぞれ6事業場(同22.2%)

★衛生管理体制の不備が少なからず認められた。


■対象事業場における管理状況


1.被災労働者に対する健康診断の実施及び事後措置の状況

●被災労働者に対して発症前の1年間に健康診断(採用後1年未満の者は雇入時の健康診断を含む。)を受診させていなかった事業場は13事業場(22.8%)。

●健康診断を受診した被災労働者44人中、何らかの所見が認められた者は28人(受診者の63.6%)いたが、これら有所見者に対し事後措置*1を講じた事業場は11事業場(39.3%)で、17事業場(60.7%)は講じていなかった。
2.労働時間の把握状況
  被災労働者について、労働時間の把握を行っていなかった事業場は13事業場(22.8%)。


3.過重労働による健康障害防止対策の実施状況

*1 有所見者に対する事後措置

(1)医師等からの意見聴取
  労働者の就業上の措置に関しその必要性の有無、講ずべき措置の内容に係る意見を聴取
(2)勤務軽減措置
  医師等の意見を勘案し、必要があると認められるときは、その労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、
  作業転 換、労働時間の短縮深夜業の回数減少等の措置を講じる
(3)保健指導の実施
  医師、保健師による保健指導実施

 過重労働による健康障害防止を発生させた時期に、医師による面接指導を実施していなかった事業場は36事業場で、全体の63.2%。

4.衛生管理体制等の整備状況

 過重労働による健康障害を発生させた時期に、
(1)衛生委員会を設置していなかった事業場:8事業場(29.6%)
(2)衛生管理者、産業医を選任していなかった事業場はそれぞれ6事業場(22.2%)
(3)産業医が職務の適切な実施を行っていなかった事業場は2事業場(7.4%)

5.自主的な改善状況
 過重労働による健康障害を発生させた後、監督指導実施までに自主的に改善を行った事業場:27事業場(47.4%)
 
 ●改善した事項の概要は
(1)労働時間の適正把握、長時間労働の是正:12事業場(改善した事業場の44.4%)
(2)健康診断の実施、衛生委員会活動強化:2事業場(同7.4%)

■過重労働による健康障害防止対策に関する東京労働局の取組について

1.平成20年の東京における労働者1人平均年間総実労働時間は、1,854時間(所定 1,690時間、所定外164時間)
 前年に比べ6時間減少したが、労働力調査による週労働時間別の雇用者の分布によると、依然として「労働時間分布の長短二極化」の状況にある。


2.このような状況において、過重労働による健康障害事案の発生が依然として後を絶たず、脳・心臓疾患等の労災請求・認定件数も高水準で推移していることから、東京労働局では、平成21年度においても「過重労働による健康障害防止のための総合対策」等に基づき、


(1)長時間労働の抑制に向けた取組の推進

 適正な時間外労働協定の締結・届出について、引き続き労使当事者に対し指導を行うこと


(2)労働者の健康管理に係る措置の徹底

 健康診断と健康診断実施後の措置、保健指導等を確実に実施すること及び長時間労働者に対し、医師による面接指導等を実施するよう指導を行うこと


(3)労働時間管理、健康管理等に関する法令の遵守徹底のための監督指導等

 過重労働による健康障害を発生させるおそれのある事業場に対する指導を強化し、労働基準関係法令違反には、厳正に対処していくこと


(4)過重労働による健康障害防止運動の推進

 過重労働による健康障害防止運動において毎年9月を推進月間と定め、労使による過重労働防止対策の自主的促進を図るため、
「第14回 産業保健フォーラム」を開催するほか、各署で開催する労働衛生週間説明会等あらゆる機会をとらえ集中的な周知啓発を行う。など積極的に対策を推進することとしている。

3.さらに、過重労働による健康障害防止と賃金不払残業の解消を図ることを目的に、毎年11月に「労働時間適正化キャンペーン」を実施しており、平成21年度においても長時間労働の抑制を重点に労使が一体となった取組の実施について、周知啓発を行うこととしている。


東社会保険労務士事務所HP