2009年 5月の記事一覧

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09年05月31日 16時50分25秒
Posted by: azuma
日立メディコ事件(最高裁S61.12.4)
労働契約法第17条(有期労働契約)についての参考判例

■日立メディコ事件(概要)
 Xは、昭和45年12月1日から同月20日までの臨時員として雇用され、同月21日以降、期間2ヶ月の労働契約が5回更新されてきたが、会社は不況に伴う業務上の都合を理由に、昭和46年10月21日以降の契約の更新を拒絶した。


★ポイント
1.会社の臨時員制度は、景気変動に伴う受注の変動に応じて雇用量の調整を図る目的で設けられたものであり、臨時員の採用に当たっては学科試験や技能試験等は行わず簡易な方法で採用を決定していた。

2・臨時員に対し、一般的には前作業的要素の作業、単純な作業、精度がさほど重要視されていない作業に従事させる方針をとっており、Xも比較的簡易な作業に従事していた。

3.臨時員の契約更新に当たっては、更新期間の約1週間前に本人の意思を確認し、当初作成の労働契約書の「4雇用期間」欄に順次雇用期間を記入し、臨時員の印を押捺せしめていたものであり、Xとの間の5回にわたる労働契約の更新は、いずれも期間満了の都度新たな契約を更新する旨を合意することによってされてきた。

4.会社は雇止めをXら臨時員等に告知した際、柏工場の業績悪化等を説明した上で、希望者には就職先の斡旋をすることを告げたが、Xはそれを希望しなかった。

☆判決
「5回にわたる契約の更新によって、本件労働契約が期間の定めのない契約に転化したり、あるいは期間の定めのない労働契約が存在する場合と実質的に異ならない関係が生じたということもできない。」

「臨時員は、季節的労務や特定物の製作のような臨時的作業のために雇用されるものではなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり、Xとの間においても5回にわたり契約が更新されているのであるから、このような労働者を契約期間満了によって雇止めするに当たっては、解雇に関する法理が類推され、解雇であれば解雇権の濫用、信義則違反または不当労働行為などに該当して解雇無効とされるような事実関係の下に使用者が新契約を締結しなかったとするならば、期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となるものと解せられる。」

「しかし、臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上、雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである。」 

「工場を一つの事業部門として独立採算制をとっていたことが認められるから、同工場を経営上の単位として人員削減の要否を判断することが不合理とはいえず、本件雇止めが行われた昭和46年10月の時点において、工場における臨時員の雇止めを事業上やむを得ないとした判断に合理性に欠ける点は見当たらず、本件雇止めについては、当時のXに対する対応等を考慮に入れても、これを権利の濫用、信義則違反と断ずることができないし、また、当時の工場の状況は同工場の臨時員就業規則74条2項にいう「業務上の都合がある場合」に該当する。」

東社会保険労務士事務所ホーム
09年05月31日 16時08分29秒
Posted by: azuma
東芝柳町工場事件(最高裁S49.7.22)
労働契約法第17条(有期労働契約)についての参考判例

■東芝柳町工場事件(概要)
 契約期間が2か月の労働契約書を取り交わした基幹臨時工が、当該契約が5回~23回にわたって更新された後、会社から雇止めの意思表示をされた。

★ポイント
1.臨時工は、採用基準、給与体系、労働時間、適用される就業規則等において本工と異なる取扱いをされ、本工労働組合に加入し得ず、労働協約の適用もないが、その従事する仕事の種類、内容の点において本工と差異はない。

2.臨時工が2か月の期間満了によって雇止めされた事例はなく、自ら希望して退職するもののほか、そのほとんどが長期間にわたって継続雇用されている。

3.会社の臨時従業員就業規則(臨就規)で1年以上継続して雇用された臨時工は、試験を経て本工に登用することとなっているが、不合格となった者でも、相当数の者が引き続き雇用されている。

4.採用に際しては、長期継続雇用、本工への登用を期待させるような言動があり、臨時工らも期間の定めにかかわらず継続雇用されるものと信じて契約書を取り交わしたのであり、本工に登用されることを強く希望していたという事情があった。

5.契約更新に当たっては、必ずしも契約期間満了の都度直ちに新契約締結の手続がとられていたわけではなかった。

☆判決
 「本件各労働契約は、当事者双方ともいずれかから格別の意思表示がなければ当然更新される意思であったものと解するのが相当であり、期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといえる。」

「本件各雇止めの意思表示は契約を終了させる趣旨のもとにされたのであるから、実質において解雇の意思表示にあたり、そうである以上、本件各雇止めの効力の判断に当たっては、その実質にかんがみ、解雇に関する法理を類推すべきでものである。」

「本件労働契約は、相互期待、相互信頼関係のもとに労働契約関係が存続、維持されてきたものというべきであり、このような場合には、やむを得ないと認められる特段の事情の存しないかぎり、期間満了を理由として雇止めをすることは、信義則上からも許されない。しかるに、この点につき会社はなんら主張立証するところがない。」

東社会保険労務士事務所HP
09年05月29日 23時25分42秒
Posted by: azuma
第4章 期間の定めのある労働契約

 

(期間の定めのある労働契約 )
第17条  使用者は、期間の定めのある労働契約について、
やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、
労働者を解雇することができない。

 使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を
使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、
その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。

(第1項関係)
■コメント
 契約期間中の解雇及び契約期間についての配慮について規定し、有期労働契約
の終了場面に関するルールを明らかにした。

●「やむを得ない事由があるとき」に該当しない場合は、契約期間中は、
有期労働契約労働者を解雇することができない。

○契約期間は労使合意により決定したもので、遵守されるべきものであるので、
「やむを得ない事由がある」と認められる場合は、解雇権濫用法理における
「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である」と認められる場合
よりも狭い。

●「やむを得ない事由がある」という評価を基礎付ける事実についての主張立証責任
は、使用者側が負う。

△民法第628条(契約期間中の雇用保障)
「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、
各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる」
(▲「やむを得ない事由があるとき」に該当しない場合の取り扱いは明らかではない。)

(第2項関係)
■コメント
 契約期間の長期化により、雇止めに関する紛争の端緒となる
契約更新の回数そのものを減少させ、紛争の防止に資するため、
 その有期労働契約により労働者を使用する目的に応じて適切に契約期間
を設定するよう、使用者は配慮しなければならないことを規定

●同項は、契約期間を特定の長さ以上の期間とするところまでを求めているもの
ではない。




東社会保険労務士事務所HP
09年05月28日 20時53分31秒
Posted by: azuma
高知放送事件(最高裁S52.1.31)
労働契約法第16条(解雇)についての参考判例

■高知放送事件とは(概要)
 アナウンサーXは、担当する午前6時から10分間のラジオニュースについて、
2週間に2回の寝過ごしによる放送事故を起こした。
 第一事故は、Xが前日から宿直勤務した後、午前6時20分まで仮眠してしまったためラジオニュースを全く放送できなかった。
 第二事故は、同様に前日から宿直した後、寝過ごしのためラジオニュースを5分間放送できなかった。
 Xは、第二事故については当初上司に報告せず、後に事故報告書を求められ、事実と異なる報告書を提出した。そこで、会社はXを解雇した。
 会社の就業規則には、普通解雇事由として「1、精神または身体の傷害により業務に耐えられないとき。2、天変地異その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となったとき。3、その他、前号に準ずる程度のやむをえない事由があるとき。」と定められており、
 会社は、Xの行為は就業規則所定の懲戒事由に該当するので、懲戒解雇とすべきところ、再就職など将来を考慮して普通解雇に処したとする。
 これに対し、Xは解雇権の濫用であるとして、会社の従業員としての地位確認の請求を行った。

★ポイント(解雇はいささか苛酷であり、合理性、社会通念上の相当性を欠く)
1.本件事故は、Xの過失によって発生したもので、悪意又は故意によるものではなく、また、通常アナウンサーより先に起きてアナウンサーを起こすことになっているファックス担当者も寝過ごしておりXのみを責めるのは酷である
2.Xは第一事故については直ちに謝罪し、第二事故については起床後一刻も早くスタジオ入りすべく努力した
3.寝過ごしによる放送時間の空白はさほど長時間とはいえない
4.会社において早朝のニュース放送の万全を期すべき措置を講じていなかった
5.事実と異なる報告書を提出したことも、短期間内に2度の放送事故を起こして気後れしていたこと等を考えると、これを強く責めることはできない
6.Xはこれまで放送事故歴がなく、平素の勤務成績も別段悪くない
7.第二事故のファックス担当者はけん責処分に処せられたに過ぎない
8.会社においては従前放送事故を理由に解雇された事例はなかった
9.第二事故についても結局は事故の非を認めて謝罪の意を表明している

☆判決
 普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇し得るものではなく、当該具体的な事情の下において、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になる。

東社会保険労務士事務所HP 
09年05月28日 14時49分19秒
Posted by: azuma
第3章 労働契約の継続及び終了
(解雇)第16条  解雇は、客観的合理的理由を欠き、
   社会通念上相当であると認められない場合は、
    その権利を濫用したものとして、無効とする。

■コメント
 権利濫用に該当する解雇の効力について規定

●「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」
には、権利濫用に該当するものとして無効。

☆最高裁判所判決で確立している、いわゆる解雇権濫用法理を規定

△改正前の労働基準法第18条の2と同内容
 (労働契約法第16条に異動)

●解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち圧倒的に多くのものについて
使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判上の実務を
変更するものではない。
 

東社会保険労務士事務所HP
09年05月28日 12時17分46秒
Posted by: azuma
第3章 労働契約の継続及び終了
(懲戒)
第15条  使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、
  当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、 
  客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、
  その権利濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。 

■コメント
 権利濫用に該当するものとして無効となる懲戒の効力について規定

●「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」
には、権利濫用に該当するものとして無効となる。

●判断基準として、労働者の行為の性質及び態様その他の事情が考慮される。

△懲戒は、労働基準法第89条第9号の「制裁」と同義であり、
 同条により、懲戒の定めがある場合には
 その種類及び程度について就業規則に記載が義務付けられている。
*労働基準法(第9章就業規則)
 第89条
 9.表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項



東社会保険労務士事務所HP
09年05月27日 20時40分30秒
Posted by: azuma
日東タイヤ事件(最高裁S48.10.19)
第14条(出向)についての参考判例

■日東タイヤ事件とは(概要)
 出向命令を拒否した社員を、業務命令違反を理由とした懲戒解雇を無効とした。


★ポイント
 会社においては、出向に関しては休職規定において、出向その他特命による
業務処理のために必要があるときの特命休職の規定があるものの、
就業規則においては従業員の出向義務自体についの明文の規定はなかった。


☆判決

 ●従業員の出向義務自体についての明文の規定はなく、労働者の同意なしに
一方的に出向を会社が命じうる根拠を示す証拠はないといわなければならない。

 ●一定の労働条件の枠中においてのみ労務を提供するにとどまる労働契約の中では、
出向について特別の約定を定めていない限り(すなわち、労働者の同意のない限り)、
使用者は労働者に対して出向を当然に命令することはできないものというべき。

東社会保険労務士事務所HP
09年05月27日 19時46分27秒
Posted by: azuma
第3章 労働契約の継続及び終了 

(出向)
第14条  使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、
    当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情
    その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、
    当該命令は、無効とする。 

■コメント
 権利濫用に該当する出向命令の効力について規定

●出向の命令が権利を濫用したものと認められる場合には無効となる。

●権利濫用であるか否かの判断は、次の点が考慮される。

★出向を命ずる必要性

★対象労働者の選定に係る事情その他の事情


●第14条の出向とは、在籍型出向をいう。
東社会保険労務士事務所HP
09年05月26日 21時07分12秒
Posted by: azuma
(法令及び労働協約と就業規則との関係)
第13条  就業規則法令又は労働協約に反する場合には、
   当該反する部分については、第7条、第10条及び前条の規定は、
  当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。

■コメント
 法令又は労働協約に反する就業規則の効力について規定

●就業規則で定める労働条件が法令又は労働協約に反している場合
は、その労働条件は労働契約の内容とはならない。

労働基準法第92条第1項と同趣旨の規定
第92条 就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。

東社会保険労務士事務所HP
09年05月25日 21時51分47秒
Posted by: azuma
(就業規則違反の労働契約)
第12条  就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、
    その部分について は、無効とする。
    この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基による。 

■コメント
 就業規則を下回る労働契約の効力について規定

●就業規則を下回る労働契約は、その部分については就業規則で定められる
基準まで引上げられ、その他の部分は有効

●就業規則の基準を上回る労働契約は有効

△労働基準法第93条
第93条 労働契約と就業規則との関係については、労働契約法第12条の定めるところによる。





東社会保険労務士事務所HP
09年05月22日 22時05分46秒
Posted by: azuma
(就業規則の変更に係る手続)
第11条  就業規則の変更の手続に関しては、労働基準法第89条及び第90条の
    定めるところによる。

■コメント 
 労働基準法第89条及び第90条の手続きが重要であることを明らかにした。

*労働基準法第89条及び第90条とは(ポイント)

 △第89条 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を変更した場合、
    所轄の労働基準監督署に届け出なければならない。
 △第90条 使用者は、就業規則の変更について、過半数を代表労働者の意見等を聴いて、
    届出の際には、その意見書面添付しなければならない。

●第10条の合理性判断に際しては、就業規則変更に係る諸事情が総合的に考慮される。
 使用者による労働基準法第89条及び第90条の遵守の状況は、合理性判断に際して
 考慮され得る。

東社会保険労務士事務所HP
09年05月19日 20時09分22秒
Posted by: azuma
秋北バス事件(最高裁S43.12.25)

 労働契約法第7条参考判例 (就業規則と労働契約との法的関係) 

■概要  
 就業規則の変更により、定年制度を改正して主任以上の職の者の定年を55歳に定めた(一般従業員については50歳)ため、それまで定年制の適用のなかった労働者が定年制度の対象となり、解雇通知を受けた事例で、新たな就業規則の作成・変更によって、既得権利を奪い労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが、  
 当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者においてこれに 同意しないことを理由としてその適用を拒否することは許されないと解すべきとし、不利益を受ける労働者に対しても、変更後の就業規則の適用を認めた。 

★ポイント(不合理、信義則違反、権利濫用と認められない。) 

1.定年制は、人事の刷新・経営の改善等、企業の組織及び運営の適正化のために行われるものであって、一般的にいって、不合理な制度ということはできない。 

2.新たに設けられた55歳という定年は、産業界の実情に照らし、かつ、一般従業員の定年が50歳との比較権衡からいっても、低きに失するともいえない。

 3.必ずしも十分とはいえないにしても、再雇用の特則が設けられ、同条項を一律に適用することによって生ずる過酷な結果を緩和する道が開かれている。 

☆判決 

 「多数の労働者を使用する近代企業においては、労働条件は、経営上の要請に基づき、統一的かつ画一的に決定され、労働者は、経営主体が定める契約内容の定型に従って、附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされるのが実情であり、この労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている。」 

 「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないが、
  労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない。」

東社会保険労務士事務所
09年05月19日 15時44分12秒
Posted by: azuma
みちのく銀行事件(最高裁H12.9.7)

労働契約法第9条及び10条についての参考判例
(就業規則変更による労働契約の内容の変更)

■みちのく銀行事件(概要)
 就業規則の変更により、55歳以上の行員の賃金削減を行ったことについて、多数労働組合の同意を得ていたが、高年層の行員に対しては、専ら大きな不利益のみを与えるものであり、救済ないし緩和措置の効果が不十分であったため、合理性が認められなかった

★ポイント
1.賃金制度の2度わたる見直しを行う際に、労組(従業員の73%が加入)の同意は得たが、少数組合の同意を得ないまま実施した

2.本件就業規則等変更は、変更の対象層、賃金減額幅及び変更後の賃金水準に照らすと、高年層の行員につき雇用の継続や安定化等を図るものではなく、逆に、高年層の行員の労働条件をいわゆる定年後在職制度ないし嘱託制度に近いものに一方的に切り下げるものと評価せざるを得ない。

3.本件における賃金体系の変更は、短期的にみれば、特定の層の行員にのみ賃金コスト抑制の負担を負わせているものといわざるを得ず、その負担の程度も前示のように大幅な不利益を生じさせるものであり、それらの者は中堅層の労働条件の改善などといった利益を受けないまま退職の時期を迎えることとなる

☆判決
 「就業規則の変更によってこのような制度の改正を行う場合には、一方的に不利益を受ける労働者について不利益性を緩和するなどの経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきであり、それがないままに右労働者に大きな不利益のみを受忍させることには、相当性がないものというほかはない。」
東社会保険労務士事務所ホーム
09年05月19日 15時17分20秒
Posted by: azuma
第四銀行事件(最高裁H9.2.28)

労働契約法第9条及び10条についての参考判例
(就業規則による労働契約の内容の変更)

■第四銀行事件とは(概要)
 就業規則によって、定年を55歳から60歳に延長する代わりに給与が減額された事件で、秋北バス事件・大曲市農協事件の最高裁判例を踏襲し、さらに、合理性の有無の判断に当たっての考慮要素を具体的に列挙し、その考慮要素に照らした上で、就業規則の変更は合理的であるとした 。

★ポイント(就業規則変更の必要性及び相当性の肯定)
1.定年延長の高度の必要性があった
2.定年延長に伴う人件費の増大等を抑える経営上の必要から、従前の定年である55歳以降の賃金水準等を変更する必要性も高度なものであった
3.円滑な定年延長の導入の必要等から、従前の定年である55歳以降の労働条件のみを修正したこともやむを得ない
4.従前の55歳以降の労働条件は既得の権利とまではいえない
5.変更後の55歳以降の労働条件の内容は、多くの地方銀行の例とほぼ同様の態様である
6.変更後の賃金水準も、他行の賃金水準や社会一般の賃金水準と比較して、かなり高い
7.定年が延長されたことは、女子行員や健康上支障のある男子行員にとっては、明らかな労働条件の改善である
8.健康上支障のない男子行員にとっても、60歳まで安定した雇用が確保されるという利益は、決して小さいものではない
9.福利厚生制度の適用延長や拡充等の措置が採られている
10.就業規則の変更は、行員の約90パーセントで組織されている組合との合意を経て労働協約を締結した上で行われたものである

☆判決
  「合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。」


東社会保険労務士事務所ホーム
09年05月19日 12時05分58秒
Posted by: azuma
大曲市農業共同組合事件(最高裁S63.2.16)

労働契約法第9条及び10条についての参考判例
(就業規則による労働契約の内容の変更)
■大曲市農業共同組合事件とは(概要)
 7つの農協の合併に伴い、新たに作成・適用された就業規則の退職給与規定が、合併前の1つの農協の従前の退職給与規定より不利益(退職金支給倍率が低減した)なものであった事例で、秋北バス事件を踏襲した上で、就業規則の合理性について、その必要性及び内容の両面からみて、労働者が被る不利益の程度を考慮しても、新しい労使関係における就業規則の法的規範性を是認できる合理性があるとして、新規則の合理性を認めて、不利益を受ける労働者に対しても拘束力を生じるものとした。

★ポイント

1.退職金支給倍率は低減したが、、給与額は合併にともなう給与調整等によって、相当程度増額されており、退職時までの給与調整の累積額は、おおむね本訴の請求額と等しい。

2.合併の結果、休日・休暇・諸手当、旅費等の面で有利になっている。

3.定年も男子は1年間、女子は3年間延長されている。

☆判決
 「特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し、実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。」






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